男殺し・河上加代・９









２．衣装





うるさい・・・・

朝の５時だ。こんな時間に携帯からけたたましく浜崎の「Ｗｈｏ・・・」が鳴り響く・・・・

似合わない着メロかもしれないけど、あたしだってちょっと前まで普通の女子高校生だったから流行の歌も聞いた。
友達とカラオケにも行った。ご飯をみんなで食べに行って普通の話を楽しんだ・・・・

しかし、今は少し違う。

地下プロレスに出場するんだ。

眠気眼をこすりながらも携帯にでた。

「も〜し〜も〜し・・・・・」

あたしが言うと、耳にタコが出来るほど聞き慣れた声がした。

「姉御！！！なにやってるッスか！！！電車まにあわーねッスよ！！！今日試合ッスよ！？早く起きて！！！」

朝からこいつの声は耳につく。まだ寝ぼけていたあたしは、何事もなかったように電話を切った。

・・・・また携帯がなってる・・・・しょうがない出るか・・・・

「何寝ぼけてるんッスか！！！マジ間にあわねよ！！！いい加減起きろ！！このデカ女！！！」

ブチ切れた！！

「あんた！！いい加減にしな！！人の眠りを妨げて、デカ女ってなによ！！！
人が気にしていることを言って良いとおもってんの！！？
それに姉御は止めなさい！！朝はや・・・・」

そこまで言うと、

「ようやく目が覚めましたね！！今から迎えに行きます！！」

一方的に電話が切れた。・・・・そうだ、今日は試合当日なんだ！！

時計に目をやる。

え！！？もうこんな時間！！？やばい！！急がなきゃ！！！

慌ててあたしはベッドから起きると、髪を整え、歯を磨き普段はあまりしない化粧も
本当に目立たない程度にやって、お気に入りのＴシャツにＧパンという
ラフな姿に着替え、義重が来るのを家の前で待った。

数分後・・・・姿は見えないが遙かかなたから、ドドド、ドドド、ドドドと３連で切れるハーレーを真似た
エンジン音の音がしてきた。当然、本物のハーレーとは比べ物にはならないけど。

義重の最近新しく買ったバルカンドリフターだ。相変わらずうるさい音をしている。

「おはようございます。姉御、行きましょう！！」

「おはよー。じゃー行こうか？」

あたしは義重の後ろに乗り駅に向かった。行く途中あまりにも暇過ぎて色々義重に悪戯を始めた。

耳に息をかけたり、革ジャンの下から手を入れ乳首をつねってみたり、あたしに潰された金玉をさわったり・・・・

義重はそのたびに身体をくねらせ「もう！！事故りますよ！！」と嬉しそうに言った。

・・・・かわいいやつ・・・・

駅に着き、二人で走った。何とかギリギリながらも会場のある秋田行きの電車に飛び乗った。

すると座席に着き、着ていた革ジャンを脱ぎＴシャツ姿になった義重が
自分のバックからなにやら袋を取り出した。

「なに、それ？」

「姉御にプレゼント！」

「え！！？ウソ！！？マジ！！？超うれしー！！！ねー開けていい？」

「どうぞ。どうぞ！！！」

「・・・・・・なに？これ・・・」

袋の中は真っ赤な水着・・・いや、コスチュームだ！！
女子プロレスラーが使っているような。上下に別れている。

「どうです？気に入ってもらえました？姉御は肌が白いから赤が似合うッスよ！！
試合が決まって速攻プロレスショップにいって特注で作りました！！いや〜早く観たい！！
似合うんだろうなー。姉御は美人だから何を着ても似合うと思いますよ！！」

あたしは呆気にとられ何も言えなかった。

・・・・何処までこいつは馬鹿なんだ・・・・

「本当は靴も注文したんですけど間に合わなくて・・・・すみません！！あれ？どうしたんですか？」

「・・・・あんた、こんな恥ずかしいもの着させて試合に出るの？ヤダ！！絶対着ない！！」

「じゃー姉御は衣装もってきてるんですか？それともその服で試合するんですか？
返り血飛んで汚くなってしまいますよ！！！」

あたしに気にいって貰えなかった義重はちょっと不機嫌そうに言った。

たしかに、コスチュームのことなんか忘れていた・・・・
しかもこのＴシャツはあたしのお気に入り。

しょうがない・・・・恥ずかしいけど義重特注衣装で出てあげるか・・・

「いや、ゴメンね、ちゃんと着るから。でも、靴はどうするの？あたし今日ミュールだから・・・
これじゃ動きにくいし・・・・あたし、足でっかいからそこら辺に売ってないけど・・・・」

「そんなもの裸足でいいッスよ！！なんせ、プロレスですからね！！
裸足の方が動きやすいし、下手な靴履くと衣装台無しになっちゃうし！！」

そう言うと義重はＧパンから煙草を、脱いだシングルの革ジャンから１００円ライターを取り出し
満足げな顔をしながら吸い始めた。

・・・・・・この男は本当の馬鹿だ。・・・・・

あたしもそれ以上先は何も言えず、義重の持ってきたビールを飲み、外の景色を見ながら眠りについた。

 

（早く試合がしたい！！・・・・・どんな奴が相手なんだろう？
男だろうな・・・どんな男だろう・・・
速攻試合を決めようかな・・・・いや、それとも・・・・・）

 


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